広告にまつわる話ブログ

広告代理店でマーケティングを担当。好きな広告について語ります。

広告代理店ではなく広告制作会社に就職した50代の広告マンの話

 

広告代理店ではなく広告制作会社に就職

大学時代から広告の仕事に就こうと決めていました。でも、就職は卒業時期の景気によって運、不運があります。今はコロナ禍で就活で苦労されている方も多いと思います。私もオイルショック後の氷河期と言われた時代にぶつかってしまい、就職活動が上手くいきませんでした。

 

学科事務室の前に貼りだされている求人票も数少なく、ゼミの先生の紹介も小さな出版社だけでした。ネットもない時代なので情報も少なく、就職エージェントといった存在もありません。就職説明会に顔を出すくらいしか就活の手立てがありませんでした。

 

そして、私がどうにか就職できた会社は広告代理店ではなく、少しでも広告に携われるならと思って屋外広告の制作会社に就職しました。

屋外広告とはいっても看板製作が主で、業界では大手と言われましたが、ビルの屋上に大型の広告塔などを製作するいわゆる「ネオン屋」と呼ばれる会社でした。

のちに聞いた話ですが、作詞家として有名になった阿久悠氏と同じ道を選んだことになったのです。

 

媒体営業もネオン屋の仕事は

大型の屋外広告は大手の広告代理店がクライアントから受注し、私のいた会社のような製作会社が下請けとして制作・施工・設置するのが通常の流れです。ただしそのようなケースばかりではないということを入社してから知りました。

 

大手の広告代理店では業界で「媒体」と呼ばれる大型広告を出せるようなビルの屋上や壁面の権利を持っているところはほとんどなく、そのようなリスクのある行為はしません。

媒体の権利を持っている会社の多くは私のいたようなネオン会社や媒体の権利だけで商売している小さな代理店で、製作の仕事を取るために媒体を確保しているのです。

 

営業マンの仕事は代理店廻りの売り込み

そして、ネオン会社の営業マンは毎日のように大手の広告代理店を廻り媒体のセールスをしています。ナショナルクライアントと呼ばれる大手企業が、例えば「銀座にネオン塔を出したい」という話を聞けば、自分の会社が権利を所有している場所を代理店に勧め、広告の製作費に媒体料を乗せて受注するのです。

 

他の会社に権利を取られないために広告が設置されていなくてもある程度のお金を払って押さえているので、会社は出来るだけ早く広告を着けたいのです。

 

私も屋外広告の営業マンとしてこのような仕事をしていました。毎日のように幾つもの代理店を回り、情報を掴もうと必死で走り回り、いつも代理店にいるので、そこの社員の様に思われることもしばしばでした。

 

当然ですが、媒体の大きさを見ればネオン管がどのくらい必要か? 何ボルトのネオントランスがどのくらい必要かが直ぐに分かるようになりましたし、施工日数や予算見積りも直ぐに出せるようになりました。

 

ただし、我々が直接クライアントに会うことはなく、同じテーブルに着くということはありません。媒体を持っているにも拘らず虚しさを感じる仕事でした。

 

時代の変化で転機が訪れる

しかし、時代は丁度バブル期に入り、企業は広告にお金を使うようになりました。広告代理店も人手不足で少しでも知識のある人材が欲しいことから求人募集をかけるところが多くなり、同級生たちも大手の広告代理店に転職する者が出てきます。

 

正式な募集ではなかったようですが、ネオン屋にもそのような話が密かに出回ってきました。そして、私も広告代理店の部長から「うちの会社に来ないか?」と誘われたのです。

 

長年この仕事をしていると広告を出すのにロケーションのいい場所はそうたくさんはなく、どこの会社が権利持っているかと言うことが自然に分かるようになり、大体の媒体費も分かってきます。

 

大手代理店はネオン屋に頼らなくても情報が頭の入っていて見積もりが直ぐにできるような社員が欲しかったのです。ただし、ネオン屋を辞めて広告代理店に転職することは元の会社に直ぐに分かってしまうので、やりにくくなることは分かります。

 

でも、私は大学時代からの夢であった業界人になれるのならば、それも仕方ないと思って転職を決意しました。私が丁度30歳になる手前ことです。

 

昔と今の転職の違い

これが今の時代ならば、知識と経験を持って転職するというケースになると思います。昔と違い、今は転職を前提に就職する人もいますから、ステップアップと言うことになります。今は30代ならば即戦力として欲しい人材をオープンではなく、クローズで就職エージェントに頼む企業も多く、特に専門職を探したいというケースが多くなっているのです。

 

特に最近は、転職サイトでもオープンの募集ではなく、登録している人材の中から相手企業にマッチする人を紹介する人材サービスがあるので、即戦力として自分に合った企業を見つけてくれることが多くなっています。

 

私も今の時代ならばもっと早く広告代理店の社員になれたかもしれませんが、昔はそのようなチャンスはごく僅かでした。

 

新しい技術や素材が現れ、業界も変わっていく

転職した当初は、同業からも陰で嫌味を言われ、特に元いた会社の媒体を扱うような時はやりにくいこともありましたが、段々にそれもなくなり、何と言っても正社員として大手代理店の広告マンになれたことが嬉しく、それまで以上に頑張りました。私はネオン屋が嫌だったわけではありません。

 

夜間工事の立ち合いなどで時間が不規則な点はありましたが、ブラック企業ではありませんでした。

でも、クライアントと直接会って、希望を聞きながら商談が出来るところがそれまでの私の仕事と大きく変わったところで、自分の考えを表に出せる広告制作の醍醐味を味わうことが出来た気がしました。

 

その後は、ネオン管を使う仕事は次第に減って素材もLEDに変わり、大型のたばこボードも姿を消したことで、広告を出す企業が大きく変わりました。

 

街には大型の映像装置や大型プリントの出現で街にビジュアル広告がとても増えましたが、私は屋外広告は交通広告と同様無くなることの無い広告として街にあり続けると思っています。

 

そして、銀座4丁目の角に立って周囲を見回すと自分の手掛けた広告が目につくというのはとても気持ちが良く、この仕事をしていてよかったと思う瞬間です。

 

長くなりましたが、私の転職経験をお話しさせていただきました。私の時代の就職、転職は時代の偶然性が大きく左右しました。オイルショックやバブル景気を経験してきた私にはそのように感じます。

 

でも、今の新卒の就活や30代の転職は昔と全く違います。転職することを前提に知識や経験を積み、即戦力として自分の目指す企業にチャレンジするのも当たり前の時代になりました。

 

ただし、それには自分だけの力では限界があります。多くの情報を持っている就職エージェントの力も必要です。

 

私のように知り合いから誘われて転職するより、自分の能力や経験を冷静に判断し、一番適している会社を紹介し、プッシュてくれる会社の方がより安心で確実です。特に30代の転職にはそれが最適だと思います。

 

狭い世界でも業界内の転職は意外に多い

私のように同じ業界内で転職する人はかなりいます。正式な募集で転職する人もいますが、取引先からの引き抜きと言う手段を使うケースもあります。

 

更に屋外媒体を扱う小さな代理店などは、仕事を覚えてしまうと会社を辞めて他に移り、渡り歩いている者もいます。中には会社に黙って屋外の権利を得て、新しく移った会社で利用すると言った悪賢い抜け目のない人もいます。

 

この他にも独立して自分で屋外広告の代理店を始める起業組もいます。いいロケーションのビルを持ったオーナーに気に入られ、その権利を得れば、それだけでも十分企業活動が出来るからです。

 

広告業界は人の繋がりで出来ている

このように広告は人の繋がりで、転職や独立と言うことがしばしば起こります。中には自分のクライアントを持ったまま転職、独立することもあるので、隠れながら素早く身をかわす人もたくさんいます。

 

本来はビジネスルールには反しているのかもしれませんが、広告業界ではよくあることで、生き馬の目を射抜くような人が生き残る世界なのかもしれません。大手の代理店ではさすがにできませんが、「媒体屋」などと呼ばれる小さな代理店ではよくあることです。

 

転職で広告業界に入って来る人もいる

広告業界をリストラされて止む無く転職する人がいる中で、反対に広告業界に入ってくる人もいます。私の知っている人の中には広告資材メーカーの社員だった人が広告製作会社の社員として転職した例もあります。

 

広告の素材の知識が豊富にあって、使い方や使い分けを熟知していることから、製作会社の社長も彼を入社させたようです。

 

決して引き抜いた訳ではなく、本人は資材を売るより、製作に関わりたかったと言っていますから、本人の意思で転職したようです。このように自ら自分を売り込んで転職するケースも中にはあります。

 

業界内の転職は決して悪いことではない

今までお客さんだった会社に転職するのはとても難しそうに思いますが、社員同士はとてもうまくやっているようで、本人もとても楽しそうに仕事をしていました。

 

私と同じように身近な会社に転職するのは、周りが知っているのでやり易い面と難しい面がありますが、人生は一度ですから自分のやりたい道を選んで、一所懸命頑張るのが一番いいことではないでしょうか。

 

このように即戦力として転職するのも若いうちならば、給料もさほど高くないので受け入れる企業の負担も少なく、意外にスムーズに行きます。20代から30代までならば転職しても直ぐに新しい会社に慣れるので充分やっていけます。

 

自分のやりたいことやステップアップしたいならば、転職はこれからの時代にマッチしているのではないでしょうか。

 

特に今は就職エージェントと言う転職の強い見方がいますから、労働時間が異常に長いようなブラック企業に入ってしまった場合は、我慢しても現状が好転することはないので、思い切って転職を考えるのもいいと思います。

 

特に今は残業が労働時間に組み込まれている固定残業やタイムカードを押した後に仕事をしなければ終わらない様な企業もあります。そんな時は専門家の力を借り、自分の経験を活かして転職しましょう。